経営学(けいえいがく、英: business administration)とは、経営について研究する学問である。社会科学の一分野。
定義
効率的な組織運営を考える学問
経営学とは「常に変化する内外の環境において組織をいかに効率的に運営するか」を解明する学問である。その対象は今日では広く、企業だけでなく、官庁組織、学校その他一般に組織といわれるものすべてを含むと考えられる。行政学から影響を受ける。行政学が政府の仕組みや組織等を扱うのに対し、初期の経営学は主に営利企業の組織を取り扱った。行政学者のハーバート・サイモン等は行政学と経営学双方の学問分野に関連がある。
企業を対象とする領域学
経営学とは、「企業」という特定の領域を対象とする領域学のことである。「領域学」とは、経済学・社会学・心理学などのように、特定の限られた変数群と一定の理論的枠組みとを用いて、対象世界に接近する「ディシプリン」の学問ではなく、教育学や宗教学と同じように、変数群や理論的枠組みを特定化するのではなく、むしろ対象世界を特定化して、それに対して多面的に接近する学問であることをいう。その領域学としての経営学の対象は、企業である。企業は形式的には生産の担い手であるといわれるが、生産という言葉のなかには、財・サービスをつくるという意味はもとより、新しい知識を生み出す、イノベーション(経営革新)といった意味合いもまた含まれている。
- 上位構造により下位構造は規律される。たとえば、労働法(強行法規)の下で人事労務管理は機能する。
- 2020年代のコロナ禍以降、上級幹部職業人のリカレント教育の一環として社会人大学院が重視されている。厚生労働省は教育訓練給付制度において慶應義塾大学大学院経営管理研究科EMBAプログラム等を講座指定している。
狭義の経営学に内包される2領域
狭義の経営学としては組織体の効率効果的な運営のための長期的視野に立った理論の構築を目的とする学問と捉えられるため、その際は会計学やマーケティングなどの分野は除外される。
経営学の問題意識を明白にするためには、次の2つのことが必要となる。
- ビジョン達成に向けて、企業(およびそのほかの組織体)の組織構造とその機能をどのように設計すればよいか、その方法論や根拠などを明らかにすること。…マクロ組織論は、こういった目的意識を共有する経営理論の分野である。古くはエージェンシー理論、近年ではスチュワードシップ理論などがこの領域では有名。コーポレート・ガバナンスなどへの応用が進んでいる。
- ビジョン達成を目的とした、持続的な競争優位を確立するためのアクション・プラン設計方法やその根拠などを明らかにすること。…経営戦略論が、こういった目的意識を共通のメインテーマとしている。経営戦略論には、全社戦略論と競争戦略論の2つの領域がある。前者の全社戦略論では、オリバー・ウィリアムソンやロナルド・コースらが理論化に尽力した取引費用理論、金融工学のオプション価格理論にルーツを持つリアル・オプション理論といった理論などが有名。後者の競争戦略論ではマイケル・ポーターが理論化したポジショニング理論やジェイ・B・バーニーのリソース・ベースド・ビューなどが実務でしばしば用いられている。
日本では、マクロ組織論、経営戦略論の2つをまとめて経営学と呼ぶ学問体系が確立している。日本で初めて経営学の概念を提唱したのは、商工経営学と名付けた上田貞次郎東京高等商業学校(現・一橋大学)教授とされる。
学際的な学問としての経営学
経済学では、各主体(個人・企業、およびそのほかの組織体)の行動が市場原理にゆだねられた場合の帰結(均衡)と、そこでの資源配分の効率性や社会的総余剰の適切さについて分析したり、社会システムの構造を物象化の機序を明らかにしつつそこに生起する論理と動態を明らかにすることに重点が置かる。
それに対し、経営学は、いかにすれば企業(およびそのほかの組織体)がその業績や効率性を向上させることが出来るかを明らかにしようとする。つまり、社会全体を見るか・一組織を見るかの違いであり経済学的アプローチではミクロ経済学の範疇であると、かつては考えられていた。
また、同じ「企業」を観察する場合でも、経済学では各企業が合理的な行動をとった場合にどのような状態が現出するかを考察することが多く、経営学では企業がどのような行動をとることが合理的かを考察する、などの違いがある。
以上のような学問的出発点の違いから、経営学では個々の企業間の差異が注目されるのに対し、(特に新古典派の)経済学ではその差異にはあまり注意が払われない場合が多い。
ただし、1980年代以降、経営学分野で経済学理論を基礎とした領域が発達したり(マイケル・ポーター、伊丹敬之等)、経済学でも企業・組織のメカニズムや効率性を分析する領域(企業経済学・組織の経済学など)が発達していることから、両者の違いは以前ほど明確ではなくなってきている(事実、アメリカのビジネススクールには経営学者と経済学者が混在している)。
とは言え、経営学は「領域」の学問と言われるように、社会学的手法を用いた分野(マーケティングなど)や、社会心理学的手法を用いた分野(労務管理論など)など手法横断的・学際的な発展をしており、数学を用いた社会分析に特化し続けている(「ディシプリン」としての学問)経済学とは一線を画している。最近の経営学者・経済学者には、この点を両者の相違としている者も多い。
学術の動向
- 1926年、神戸高等商業学校(現在の神戸大学)で「經營学」という名称の授業科目が開講した。神戸大学六甲台キャンパスには「わが國の經營學ここに生まれる」と刻まれた碑がある。
- 1926年、日本経営学会が創設された。
- 1951年、日本で初めて経営学博士が授与されたのは平井泰太郎(授与機関は神戸大学)である。
- 1962年、我が国最古のビジネススクールである慶應義塾大学ビジネススクールが慶應義塾大学産業研究所 (KEO) より分離独立した。
日本学術会議
25期 経営学委員会 (3名) 令和2年10月現在
24期 経営学委員会 (3名) 平成30年4月25日現在
日本学術振興会産学協力研究委員会
経営問題108委員会
1947年、日本学術振興会が経営問題108委員会を設立した。学界委員と産業界委員が連携して活動している。 下記に事例として、2012年における日本学術振興会産学協力研究員会 経営問題108委員会委員構成を取り上げる。
産業構造・中小企業第118委員会
日本学術振興会は産学協力研究委員会として産業構造・中小企業第118委員会を擁している。日本学術振興会産業構造・中小企業第118委員会は日本における中小企業研究の中核的な組織である。戦前から活動してきた日本学術振興会第23(中小工業)小委員会に端を発している。日本学術振興会第三常置委員会に中小工業に関する研究を行う第二三小委員会を設置することとなる。昭和13年11月4日、第一回会議(如水会)で招集され、上田貞次郎委員長、 山中篤太郎幹事体制となる。
第23小委員会
第二三委員会は、国民経済構造第七七小委員会(昭和20年~22年)、中小産業復興第九〇小委員会(昭和21年~23年)を経て、昭和23年4月に現在の第118委員会として発足した。委員16名構成とした。
その他委員 磯部喜一、大塚一朗、小田橋貞寿、末松玄六、高宮晋、田杉競、豊崎稔、中西寅雄、中山素平、藤井茂、細野孝一、松井辰之助、美濃口時次郎、村本福松。
委員の構成(平成31年4月現在)
委員構成については、時代によって社会経済環境の変化に応じて編成が異なる。下記に事例として、平成10年代、平成20年代と10年単位で遡り記載する。
委員の構成(平成18年)
委員の構成(平成24年)
日本経営学会
- 日本経営学会理事長は平成初期まで一橋大学出身者と神戸大学出身者であった。
- 21世紀を迎える頃、慶應義塾大学出身者が一橋大学と神戸大学以外で初の理事長となる。
- 神戸大学経営学研究科・経営学部は公式サイトにて“地域別比較(神戸大学経営学研究科と一橋商学研究科の比較)”を掲示している。
学術団体の人事組織論の観点から、事例として、令和5年の日本経営学会役員を記載する。
進学
- 通学制の私立大学文系学費の高騰に伴い、通信制大学(東京通信大学、産業能率大学、慶應義塾大学通信教育課程、放送大学等)への進学が当然増えている。
- 経営学などの文系科目は、理系と異なり実験施設なども不要なことから、通信制大学は格安な学費で高い水準の経営学の教育を受けることが出来る。
- 放送大学は15歳以上であれば、誰でも無試験で選科履修生・科目履修生になれることから、商業高校や通信制高校進学と同時に放送大学生となり、経営学、日本国憲法、簿記、会計学等を単位習得される。放送大学は無試験入学制度である。高校の単位認定に用いられるほか、放送大学正式進学後、単位認定手続きをすることもできる。
進路
経営学は多くの資格試験や公務員採用試験の受験科目となっている。下記に代表的な事例を記載する。
資格試験
- 公認会計士・監査審査会が行う国家試験である公認会計士試験の受験科目である。
公務員採用試験
- 準キャリアと位置付けられている財務専門官採用試験の受験科目である。
- 国税専門官採用試験の受験科目である。税務大学校での研修を経て国税専門官となる。国税専門官は勤務年数等の条件を充足すると税理士資格が付与される。
- 国家公務員採用試験などでは組織論分野について行政学と出題内容が重複する。
下位分野
公共経営学
公共経営学は公共経営(英: public management)を研究する学問である。すなわち、行政組織や非営利組織の効率的運営を研究する学問である。経営学の一種であり、同時に行政学の一種でもある。
出典
参考文献
- R.Caves著「Economic Analysis and the Quest for Competitive Advantage」(『American Economic Review』74号、1984年)
- R.R.Nelson著「Why Do Firms Differ, and How does It Matter?」(R.P.Rumelt,D.Schendel,D.J.Teece編『Fundamental Issues in Strategy』Harvard Business School Press、1994年)
- 神戸大学経済経営学会編著『ハンドブック経営学[改訂版]』、ミネルヴァ書房、2016/4/11。ISBN 978-4623076734。
- 上林憲雄編著『経営学の開拓者たち: 神戸大学経営学部の軌跡と挑戦』中央経済社 (2021年)。ISBN 978-4502377518
- 日本会計史学会長 工藤栄一郎「明治初期における簿記知識の社会普及と『帳合之法』および慶應義塾の貢献」福澤諭吉年鑑 50号 pp.23-38 2023年12月
関連項目
- アンリ・ファヨール -「管理原則の父」と称される。
- フレデリック・テイラー - 経営管理論の古典の一つである科学的管理法を提唱。
- ハーバート・サイモン
- 日本経営学会(経営学領域における日本最古の学術団体であり、世界で2番目の学術団体)
- 組織学会(組織科学領域における日本最大の学術団体)
- 日本中小企業学会(日本の中小企業研究を代表する学術研究団体)




